2020.08.03

ユニファ株式会社

家族の幸せを生み出す あたらしい社会インフラを 世界中で創り出す

MAIN INTERVIEW
ユニファ株式会社

代表取締役CEO

土岐泰之toki yasuyuki

KOKOROZASHI

家族の幸せを生み出す あたらしい社会インフラを 世界中で創り出す

今回の取材について

世界最大級のビジネスプランコンテスト「スタートアップワールドカップ」で優勝し、初代グランドチャンピオンとなったユニファ株式会社。
     
同社は「スマート保育園®」構想を掲げ、AIやIoTを活用して次世代型の保育施設を世の中に提供することで、保育現場の業務負担を軽減すると同時に、保育者が十分に子どもと向き合うことができる環境を整え、保育の質の向上を目指している企業です。
   
「我々の商品を使っている保育施設とそうでない施設を比べると、年間保育者一人あたり約30%の業務低減が生まれている」と語るように保育者の心と時間のゆとりを生み出し、着実に「スマート保育園®」構想をカタチにし始めている同社。その組織づくりの秘訣には「会社と個人の方向性の同一性」「心とスキルの繋がったチーム」「顧客の心を動かす前に、部下の心を動かす」がありました。

事業推進の原動力となる志や大切にされる価値観

起業に至るまでの経緯について教えてください。

私はもともと東京在住でした。住友商事で働いていまして、子供が生まれたことを契機に家族のためにとキャリアを捨て、愛知の豊田市に移り住んだのです。ですが育児が落ち着いてきた頃に、以前から考えていた何か事業を行いたいという思いが生まれ始めました。儲かりそうな太陽光パネル事業、豊田市の自動車関連コミュニティーを盛り上げるための電子回覧板事業、果ては政治家、といったように考えは迷走をしました。その中で、他の人と違う何かを利点にして事業を創った方が良いと思い、自分自身を振り返ったのです。

私は家族のために様々なものを捨ててきました。それくらい家族が大事です。そうやって家族について考えていくと、人間の幸せの多くは家族に立脚をしていると思いました。家族をテーマに事業ができるのであれば、私の一生を賭けられるテーマになると腹落ちをしたのです。家族の幸せづくりのために、家族写真をお爺さん・お婆さんに共有するような手短なことだけでなく、保育士である姉から聞いた話をもとに保育施設と家庭をテーマにした大きな社会課題もあるとアイデアが湧いてきました。同時にビジネスとして成り立つ分野と感じ、このユニファを創業しました。

※最初に始めた写真事業「ルクミーフォト」

大切な家族を持つ中での起業。様々な葛藤もあったのではないでしょうか。

私にとってこの事業は、自分が一番幸せと思うことを、事業を通じて拡大・増産していくものとも言えます。家族がいることは人類にとって根源的な幸せの一つではないでしょうか。私自身も家族を優先することで人生の充実を果たしてきました。他の家族や子育て世帯に対しても、その幸せな時間の充実に貢献できるのであれば、自分自身が人生を投げ打っても良いくらいに大きな価値を感じます。

とはいえ、妻の説得は大変でした。様々なリスクがありますので、妻も不安に感じていたことはあるはずです。ですがそこで説得できなければ、膨大な同意と共感を集める旅である起業がうまくいくはずはありません。振り返ってみても、妻を説得し、友人20名ほどから資金を出してもらって出資金を集め、従業員を集め、初めての顧客を説得し、と膨大な同意と共感をつくる必要がありました。その旅の一番初めである妻を説得できないのであれば、きっと途中で挫折をしたはずです。覚悟を持って話し、理解を得ました。

ギリシャ時代の哲学者アリストテレスは、説得には3つの要素「エトス、パトス、ロゴス」(※)が必要と述べました。

※エトス:信頼関係。パトス:熱意。ロゴス:論理。

私は信頼関係と熱意ですね。例えば私の友人に「太陽光パネル事業をやりたい」と唐突に言っても資金援助は得られなかったはずです。彼らは私が起業する5年ほど前に、私が家族のためにキャリアを捨てたことを知っています。「そういう土岐君が家族をテーマに起業して、まずは保育施設での日常写真をテーマにするらしい」といった流れがあるからこそ、言行一致さを感じ、理解をしてくれたはずです。また行うことが利己的でなく顧客や社会のためであるからこそ、共感を集めることができたと感じます。

写真事業から始まり、「スマート保育園®」構想へ。初めから大きな構想を抱いていたのでしょうか。

※同社のパーパス(存在意義)

創業当時は鮮明に見えていたわけではありません。保育業界の根深い課題までは理解ができておらず、基本的に家族の幸せのためという大きなミッションのもと動いていました。最初の写真事業を通じて、実際に現場へ足を踏み入れていく中で得た様々な気づきをもとに、鮮明になっていったのです。

当初は一人の顧客が持つ課題を、新しい仕組みやテクノロジーで解決することを考えていました。ですが現場の実情を理解していく中で、実は一人の顧客の課題はシンプルであり、既に大手が取り組むなど他の人が携わっていることを知りました。一方で保育施設の待機児童問題のように多様な人が関わる領域は、多くの人が問題と気づいていながらも解決されず、各企業の取り組みも積極的とは言えませんでした。

その理由を考えると、結局は問題の複雑さ、一つひとつの問題の難易度の高さに起因します。これを放置して良いのでしょうか。きちんと解きほぐして、最終的に持続可能で利益が上がる仕組みをつくる経営者がこの業界にいないのであれば、私がやる価値があると思い、社会課題に向けて取り組むようになりました。そういった経緯から家族の幸せを実現する手段として「スマート保育園®」が必要と感じ、現在の構想に至っています。

社会課題の解決は、今日の企業の使命とも言えます。それがまた貴社の独自性にも繋がっていると感じます。

短期で儲けることばかりを考えると顧客に対して提供できる独自価値が薄いものになります。例えば私たちの行っているサービスの一つで、保育施設で用いる手書きの連絡書をアプリ化するものがありますが、それ自体は誰でもできます。差別化という観点でも他社にすぐに追いつかれます。長期目線で一朝一夕では解決できない複雑難解な問題を解決する仕組みや新しい社会を築くサービスを作ることを念頭に入れ事業をつくることが、独自価値を生むうえでの土台となります。

また今日的な企業は社会課題の解決を通じて、ビジネスを拡大させます。課題の解決とビジネスの拡大の両立が大切です。私たちもまた、その観点で事業を育んできました。誰も実現できていない領域なので、しっかりと1020年腰を落ち着けてやりきり、その代わり1020年かけた暁にはしっかりとさらなる利益をあげられれば良いと考えます。

そういう意味では 私自身はシリアルアントレプレナーではありません。このテーマで少し成功をしたら別のテーマでという考えではないのです。パーパスである「家族の幸せを生み出す あたらしい社会インフラを 世界中で創り出す」を志として、このテーマだけで進めていきます。

商品・サービスに込められた想い

「スマート保育園®」構想について教えてください。

端的に話しますと、AIIoTを活用して保育現場の業務負担を軽減し、保育者が十分に子どもと向き合う環境を整えることで、保育の質の向上を目指す次世代型の保育施設です。保育業界、子育て業界を丸ごとDX(デジタルトランスフォーメーション)します。

2019年に埼玉県で実装実験を進め、乳幼児の午睡(お昼寝)を見守る医療機器サービス「ルクミー午睡チェック」や保育施設での子どもの様子や成長を記録し、保護者がオンライン上で購入できる写真・動画提供サービス「ルクミーフォト」など、当社の提供するサービス「ルクミー」シリーズを導入し、保育業務の効率化を図っています。

例えばどのような効果を狙っているのでしょうか。

直接的な効果は大きくは2点、余剰時間創出と、それによる先生たちのモチベーション向上です。余剰時間創出の観点で例を紹介しますと、保育者の仕事は連絡書、日誌、写真の管理、子どもの体調管理表、あらゆるものが手書きです。進んでいる保育施設でも単なるExcel管理が多い状況があります。それらをAIによる半自動作業で効率化していきます。我々の商品を使っている保育施設とそうでない施設を比べると、年間保育者一人あたり約30%の業務低減が生まれています。

モチベーション向上の観点では生まれた余剰時間で、保育者が子どもたちと向き合う時間、保育者自身の研修時間、保育者同士の相談時間に当てることなどが実現できます。その結果、心と時間のゆとりが生まれ、保育者のやりがい向上や離職率低下に繋がり、保育の質向上にも影響を与え、保護者の満足度向上にも繋がっていきます。

この影響が大きくなっていけば、保育者がお子さんだけでなくその親御さんに当てられる時間も増え、子育てママが保育者にもっと気軽に子育てのお悩み相談ができるようになるはずです。それにより子育てママの育児ノイローゼが減り、自宅での幼児虐待といった哀しい事件が減るはずです。子育てに関わる周りの大人たちの心と時間にゆとりをもたらすためのDX実現が着実に進み始めています。

着実に実現に向け進み始めている「スマート保育園®」構想。それを実現する貴社ならではの強みとは。

大きくは2つありまして、良い商品と良い販売チャネルです。商品面では、「ルクミー午睡チェック」に代表されるように、独自の強みを持つ商品をパッケージにして提供をしています。

単にアプリをつくるだけなら、どの企業でもできます。この「ルクミー午睡チェック」では、IoTを活用した子供の様子を見守る「午睡センサー」があり、クラス1の一般医療機器として承認を得ています。またセンサーで得た記録データは保育者によるチェック結果を記録する、児童福祉法に則った監査書類としても活用できます。(基準は自治体によって異なります。詳細は各自治体までお問い合わせください)

プラスアルファの価値を提供するために、アプリ・センサー・データ活用など、それぞれに独自の強みをつくりつつ、更にパッケージ化することで、様々な利便性を発揮しているのです。医療機器の代用品レベルでのサービス設計は、初期投資費用などのリスクがありますが、それを乗り越え誰も行えていない独自の価値をつくりました。

チャネル面では、ユーザーである保育施設からの信頼を獲得できる販売チャネルである、フレーベル館さんの力を得られたことです。フレーベル館さんは100年以上の歴史を持ち、例えばアンパンマンの絵本を販売しています。これを実現するために、凸版印刷を株主として迎え入れたり、フレーベル館さんが持つ営業課題への貢献方法を提案するなど、試行錯誤をしました。

その結果、保育施設にとって信頼できるチャネルからのサービス提供が可能となったのです。保育施設は長期目線で物事を考えますので、信頼関係や何かあった時のアフターサポートなど対応の安心感が肝となります。それらをフレーベル館さんが保証してくれることにより、1万件以上のサービスの導入を短期間で実現することができました。

他に事業を行う上で意識されていることがあれば教えてください。

この業界を丸ごとDXする場合、基本的に当社を除くと3つの主体があります。保育施設、その顧客である保護者、そして当社のサービスを提供しアフターサポートを行う販売代理店となります。

よくDXを破壊的創造と捉える人もいますが、この業界でそれ行うとうまくいかないと感じます。全ての関係者を巻き込みながら、当社と保育施設、当社と保護者、当社と販売代理店といったように、全ての関係者にwinをつくることが大事です。その実現が私たちならではの強みの一つです。

今後に向けた挑戦を教えてください。

保育施設の現場改善を進めつつ、育児支援といった保護者向けのサービス展開が次の挑戦です。保護者が持つ育児の悩みは「自分の子どもにあった知育教材の選び方は」「野菜嫌いな子に食べてもらうための工夫を知りたい」などあげればキリがありません。その悩み解決に、数多くの子どもと接している保育者のノウハウを生かしていきます。

現在その開発を進めていまして、保育者だけでなく子育て中のママたちの心と時間にゆとりや安心を提供していき、結果的にはそういった子どもの周りにいる大人皆をハッピーにする、そんなサービスを作っていきます。

また今は心と時間のゆとりづくりが中心ですが、将来的には我々の写真販売の売上を一定程度、保育施設に還元することで保育者の処遇改善にまで繋げていくことを視野に入れています。他にも事業を行うならば世界№1を目指しており、日本発で「スマート保育園®」を世界に拡大していくために調査を進めています。

様々なチャレンジを視野に入れていますのでまずは、「スマート保育園®」構想のモデル園でその有用性を体感していただきたいです。都内で約10施設あり、今後は地方にも展開をします。ぜひ機会がありましたら、見学に来てもらえれば幸いです。

人財活性や組織づくりへの取り組み

土岐さんがこれまでの組織づくりで大切にしてきたことは何でしょうか。

根本的な価値観として、組織と個人は対等と考えるべきです。例えば、「会社の命令だから従え」ではなく、目指す方向に向けて対等なものです。そこで組織と個人の目指す方向が、一定程度同じである人に入社してもらうことが大切です。

当社のメンバーは最終的には保育施設を作りたい人、市長になって子育て行政をやりたい人、何らかの形で子育てや家族に対して貢献をしたい人、といったように当社の「家族の幸せを生み出す新しい社会プラン」に対して、方向性の重なる方が入社をしています。価値観や個人の夢が一定程度同じであるからこそ、対等なかたちで健全に協力し合え、長期的な関係性を育むことができるのです。

他にも大切にしていることはありますか。

今、大切になることはKPIのバケツリレーです。これまでは各事業軸で組織を運営してきましたが、今期から機能軸に変更をしました。今までは保育施設で何かあっても、事業ごとの対応になり書類もバラバラな状況でした。今後の事業展開を見据え、営業・カスタマーサクセスといったように機能軸に変更をしました。自身のチームだけでなく、前後のチームのKPIを意識しながらリレーをすることになるので、バケツリレーと呼んでいます。

その中では、アサインされる各人が自分の強みを生かし、連携できるチームづくりが重要になります。例えば経営チームをアップデートし、今後会社の目指すことを進められる人材配置を視野に入れ、その下のチームリーダーには〇〇さんを入れてと、組織配置を進めているところです。各チームが機能的に動けかつ会社としての一体感を保てる、心とスキルが繋がったようなチームづくりをしていきます。

心とスキルの繋がったチームについて、詳しく教えてください。

やはり自分自身の強みと夢と自分のKPIが繋がった方が当然良いと思います。ある社員が最終的には海外での活躍を夢見ているのならば、今は会社のステージとして直接的な機会提供はできなかったとしても、そのはしごをかけてやりたいです。

実際のケースで、その社員は個人でSNSを活用した発信を活発に行っており、そこに強みがありました。そこで新しく設けたマーケティング課に、営業課から移動をさせました。次のステージに、世界に向けて「スマート保育園®」構想などを伝えることが必要になるので、まず国内への発信に寄与してもらい、その先に海外での活躍の場をつくりたいと思います。このように、個人強みと夢と会社の求めるものを繋げることが大切です。

個人のやりたいことや適性をどのようにして把握しているのでしょうか。

基本的にはまず話を聞くことが大切です。その機会創出のために、私自身も社員とランチに行ったり、意図的にミーティングを設けています。部長や課長陣にもそのようなコミュニケーションを意識してもらっています。個人の夢も、会社の求めるものも、お互いに日々アップデートされていきますので、定期的に行うことがとても大事です。例えば新たに入社した方には、1から3か月タイミングで私と役員と社員でのランチを、人事主導で設定する場があります。

組織を機能的に動かすために必要なこととは何でしょうか。

組織が動くための起点になるのはミドル層であり、部長・課長です。現在、200名ほどいる組織の中で、部長・課長が25名ほどいます。その25名が経営の意志をどれだけ理解しているか、きちんと自分の言葉で部下に語りモチベーションを引き出せるか、横の部署と連携して機能的に動けるか、それ次第で組織のパフォーマンスは大きく変わります。

顧客の心を動かす前に、部下の心を動かせないと組織は機能をしません。「社長がやれといったからやれ」といったものは部長・課長失格です。部下の心に火をつけるようなコミュニケーションをとることがリーダーシップです。会社のハブとなる部長・課長陣が、会社のパーパスとその部署のミッションやKPI、個人的な思いなど様々なものを絡ませながら、自分の言葉で語ることが大切です。

そこで部長・課長のリーダーシップを促すためのミーティングを実施する、部長・課長だけで会話をさせる、部長・課長の研修を行う、など様々な取り組みを推進しています。すぐにできるようになることではありませんので、日々意識してその訓練を行い、しっかりと磨いていくことが大切です。

組織面での今後の挑戦について教えてください。

組織規模が大きくなる中で、会社のパーパスに皆共感はあるものの、熱狂する社員とそうでない社員と別れていくと思います。会社の成長のためには、会社と共に自分の限界を突破していく、コンフォートゾーンを突破していく社員を会社が守り応援することが大切です。

会社は日々成長をしています。これまでは、家族の幸せのためというパーパスのもと取り組み、今後もそれは変わりません。ですが会社が成長する中で、求められるものや、外部の厳しさも変化をしていきます。例えるならば、地方選が終わり全国大会の決勝戦に挑むようなステージです。そしてその先には世界戦が待っています。パーパスを大切にしながらも、ステージが上がる中で変化についていくことができるよう、温かさと厳しさを持って、組織を常に進化させ続けられるか、私自身が進化できるかどうか、そこが一番大きなポイントです。

※世界最大級のビジネスプランコンテスト「スタートアップワールドカップ」で優勝した時の様子

COMPANY PROFILE

理念・ミッション

  • パーパス
    家族の幸せを生み出す あたらしい社会インフラを 世界中で創り出す

社名

  • ユニファ株式会社

代表

  • 代表取締役CEO 土岐泰之

事業内容

  • 保育・育児関連の社会課題を解決することを目指す “Childcare-Tech”領域の スタートアップ
    ・「スマート保育園®」、「ルクミー」サービスの企画、開発、販売、運営
    AIIoT等を用いた保育関連テクノロジーの研究開発

設立年

  • 2013年5月

社員数

  • 198名(派遣スタッフ・パート等を含む)※2019年9月現在

売上

  • 非公開

所在地

  • 〒100-0011 東京都千代⽥区内幸町1-1-6 NTT⽇⽐⾕ビル8F

受賞・表彰歴

  • Mizuho Innovation Award ※株式会社みずほ銀行
  • BabyTech Award Japan2019 ※主催:株式会社パパスマイル
  • 2019 アジア太平洋地域テクノロジー Fast 500 ※主催:デロイトトウシュトーマツ リミテッド
  • スタートアップワールドカップ ※主催:ペガサス・テック・ベンチャーズ

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