2021.02.15

株式会社グローバルキッズ

子どもたちの幸せを願い、子どもたちに携わる人の幸せを願う

MAIN INTERVIEW
株式会社グローバルキッズ

代表取締役社長

中正 雄一Yuichi Nakasho

KOKOROZASHI

子どもたちの幸せを願い、子どもたちに携わる人の幸せを願う

今回の取材について

『株式会社グローバルキッズ』は、首都圏を中心に170以上の保育(学童・児童館・児童発達支援事業含む)施設の運営を通じて、次世代を担う子どもたちを育成しています。
子どもたちの「自立」と「共生」を大切にし、組織の発達と子どもの発達は同じと語る同社代表の中正 雄一さんに、人を育て組織を育てるための土台についてお話を伺いました。

事業推進の原動力となる志や大切にされる価値観

企業理念「子ども達の未来のために」に込められた思いとは?

「保育という仕事は誰のためのものなのだろうか?」と起業の際に何度もメンバーで議論しました。子どものためなのか、保護者のためなのか、保育の現場でも色々な議論がありました。その中で「目の前の子どもたちのため」という発言にもっとも共感したんです。それをしっかりと言葉にしようと考えました。

また保育の現場では、毎日子どもたちの幸せを願って仕事をしています。物やお金、名誉など色々な幸せがありますが、子どもたち一人ひとりにそれぞれの幸せがあります。私たちは、子どもたちに保育所で過ごす時間を幸せだと思ってもらいたい、そして大きくなってから過去振り返った時に幸せだったなと思ってもらいたいと考えています。この想いを実現するため、経営理念を「子ども達の未来のために」としました。

保育事業にとっての顧客を定義するのは難しいですね。

保育業界には顧客は保護者という捉え方もあります。しかし保育の現場から見ると、その捉え方には違和感もあります。 私たちは、子どもたちの幸せのために保護者にもきちんと寄り添うことが大切だと考えています。「9歳までが人格形成に関わる大事な時期ということ」「子どもは有能なので、その時期にたっぷりの栄養となる環境を用意すること」を軸に、ブレずに保護者や保護者を支える地域に対して伝えていくことが保育業界や教育現場ができることなのだと思います。

グローバルキッズという名前に込めた思いとは?

GlobalKidsロゴ

グローバルという言葉を、日本を出て世界を目指すといった意味合いだけではなく、全地球という意味で捉えています。一人ひとりが自分というものを持ち、全地球の中で色々な世界を見て、お互いに支え合い感謝し合う、そんな世界を思い描いてグローバルキッズと名付けました。

これまでは大量生産・大量消費の社会の中で、協力し合うための教育が重視されてきました。しかし、これからは自分の力で生きていかないといけない時代です。私たちは「自立」と「共生」という言葉を大事にしています。他者に依存すると、どうしても不満や不平が生まれてしまいます。だからこそ自立するということがとても大切です。

次に大切なのが「共生」です。きちんと自立していると他者との関係もうまく保てる。まず自立、その次に「共生」。この順番を子どもたちが理解できるように伝えていくことが重要だと思っています。

自分の力を養うことが大切ということでしょうか?

私たちは0の乳児 から子どもたちをお預かりしています。子どもたちは保護者にとってはもちろんのこと、私たちにとっても宝物です。しかし宝物だからと大切にするあまり、なんでも大人がやってあげるという感覚は間違っています。例えば赤ちゃんが泣いている理由も、自分が生きるために泣くことによって大人を動かしているという感覚の方が正しいと思っています。

子どもたちのことを、養護 しなければならない存在、弱い存在や未熟な存在と見るのではなく、自立した存在として理解することが大切です。

日本の子どもは自己肯定感が低いと言われますが、「あれをしてはダメだ、これをしてはダメだ。」と言われ続ける環境では、自分ではなく他人のことばかりを気にするようになってしまうのではないでしょうか。まず自分を大事にするということから始めることが大事なんです

どのようにすれば「自立」と「共生」を築いていけるのでしょうか?

ここでも順番が大切なのですが、まずは「安心」そして「信頼」です。人だけでなく、組織でも同じです。子どもの発達と組織の発達とは一緒なんです。安心する場所を提供し、そこから信頼関係が生まれると、自分というものを出せるんです。2歳になるとイヤイヤ期で大変ですよね。けれども自我が目覚めるだけでなく、自分が安心しているからこそ、イヤイヤが言えるんです。そのうえで自分というものを大事にするということ、そして友だち同士でどうやって生きていくかという「共生」の段階 に入っていきます。

そのような発達を理解せずに、常に子どもの反応を見てジタバタしていたらプロとは言えません。発達というものを理解したうえで、一人ひとりがどう発達しているかを見ていくのが重要です。私たち保育者にはそれが求められます。

「自立」するためには何が重要ですか?

自立していくのに大事なのが「選択」だと思います。自己決定はとても大事なのです。私が0歳の保育現場に入らせていただくときは、はじめ は子どもたちと私との信頼関係がまだ築けていないので、子どもたちに自己決定をることから始めます。

子どもたちが靴を履く際に、私が勝手に靴を履かせてあげるのは良いことではありません。まず「靴を履くお手伝いをして良いか?」と聞いて、よいと答えた子どもは手伝いますし、自分で履くと答えた子どもに対してはそっと見ているだけでいいんです。私が急いで靴を履かせてしまうと、この人は全然分かってくれないと思われてしまいます。私が靴を履かせることを決めるのではなく、子どもたちが選び決めることが大事なのです。

靴を自分で履くか、保育者に手伝ってもらうかも子どもたちの選択なんですね。

その通りです。自己決定する環境をどうやって作るかが重要です。保育園にはたくさんの種類のおもちゃを用意しています。なぜかと言うと、これは子どもたちがおもちゃを自分で選ぶ、自己決定の機会を作るために用意しているんです。

GlobalKids_おもちゃ

私たちが幼い頃の保育園や幼稚園は、次はお絵描きしましょう、次はこのおもちゃで遊びましょうと言われ、子どもたちがみんなで同じことを一緒にやらないといけませんでした。時間についても同様です。せっかく自分が集中して取り組んでいるときに、大人側が次のことをやらなければならないということが多かったのではないでしょうか。子どもたちがやりたいということに対して、どれだけやらせてあげるかが大事だと思います。

自己決定を積み重ねることで、自分というものがしっかりとできてくる。すると次は他者との葛藤が生まれ、「共生」へとつながっていくのです。しかし自分が土台になければ、「共生」もうまくいかないのです。

安心と信頼の土台のうえに、自己決定が積み重ねられ、自分というものがしっかりできるようになるということですね。

そうです、その構造を理解していることが大切です。これまでの幼児教育に違和感を覚えるのは、いきなり知識や技術から始めようとするところです。安心できる環境や信頼できる関係性がないのに、知識や技術から入っても身に付くことはなく、上辺だけになってしまいます。会社組織でも同じことです。新入社員に対しても、いろんな知識や技術を教えても、職場に安心感や信頼関係がなければ、身に付きません。

知識や技術の前にまず安心と信頼、組織の長はその順番を大事にしないといけません。どんなことでも言い合える関係があれば、社員も子どもたちも自ら勝手に進めて自己発見していきます。これが組織の発達と子どもの発達は全く一緒だと思うところです。

企業組織においても心理的安全性が重視されるようになってきましたね?

そうですね。これまでの時代はやらされ感でも達成できたかもしれませんが、これからの社会では自分で考えないと生きていけません。順番を間違えると人は成長しないし、苦しくなってしまいます。だから心理的安全性が重要と言われているのだと思います。

自己決定を支えるためには、個性や多様性を認めることも重要ですよね?

起業当時は多様性という言い方はしていませんでしたが、たとえ障碍を持っていようと、持っていまいと、社会とつながってどう生きていくかが大事だと思います。

子どもたちは、保育者を言葉や知識ではなくて、楽しいかどうかの態度で見ています。私たち自身の幼少期を振り返ってみても、接する人の知識や技術ではなく、人間的な魅力に憧れて、あんな人になりたいと思ってきたのではないでしょうか。

これまでの世の中は知識や技術が優先されてきた時代でした。しかし今はインターネット上で検索すれば最新の知識が手に入ります。だからこそ、子どもたちには知識や技術よりも、多様な人たちが、その人らしく楽しく仕事をしている姿を見せるべきだと思っています。

そのため私たち保育業界においても、子どもが好きなだけではなくて、色々な年齢層、色々な経験をしてきた人たち、もっと多様な人たちが入ってきた方がよいと考えています。

商品・サービスに込められた想い

首都圏で最大規模の保育園数ですね。

首都圏に170以上の施設があるため、地域ごとに環境の違いがあります。そのため「子どもの未来のために」、「豊かに生きる力を育む」という理念を共通の軸とし、各施設ではその軸に沿いながらも、設備からおもちゃの種類まで創意工夫しています。

保育のやり方まで画一的にしてしまうと、やらされ感が生まれてしまいます。特に専門職の方は作業のやり方について細かく指導されるのを好みません。表面的なやり方ではなく、子どもの考え方というものに一歩踏み込んでいくことを、GK(グローバルキッズ)保育として進めています。

保育園は保育指針というもので保育園の基本となる考えや保育内容が国で 定められており、株式会社の運営だろうと、公立であろうと、根底は一緒でどの保育でもやっていることは同じなんです。その中で私たちらしさというものを突き詰めて進めているのがGK保育です。保育のやり方や方法というよりも、子どもの発達の考え方に基づいて、各施設で創意工夫し、それをモデル園として施設同士でお互いに発信しながら、取り入れていこうと進めています。

例えば、子ども同士がケンカしていたとして、手が出そうなときは止めにはいきますが、子どもたちを信頼しているのでまずは見守ります。そういう映像を発信することによって、知識や技術より、その都度その都度の対応を発信し学びあっています。

子どもを預ける親に向けて、よい保育園の見極め方のアドバイスをいただけますか。

保育のチームワークや雰囲気を見ることだと思います。保育には色々なやり方があり、どれが一番良いというものではありません。それよりも保育の接し方や対応の仕方、それが園において共有され、一つになっているかが大事です。チームワークは数字では測れないので、見極めるのが難しいです。だから、先ほど述べた安心と信頼が園にあるか、そしてどのような目標を持っているか、それを実現するために保育それぞれの役割がきちんと明確になっているが重要だと思います。

一番分かりやすいのは子どもたちが社会人になって、あの保育園はよかった」、大人になった時に自分の子どもを預けたいと思ってもらえるかどうかです。保育士が輝いた大人として自分らしくあって、子どもたちがそれを見て大人になる喜びを感じ、早く大人になりたいなと思い、大人になったときに「自分は幸せだな。保育園の時代があったから今があるんだ。」と思ってもらいたいですね。

輝いている大人とは?

自分らしく楽しんでいることです。私は週末に大学のOBとしてアメフトをやっています。ハードなスポーツなので行くとしんどいのですが、足を運んでしまいます。しんどいのになぜ行っているのかと言うと、それは自分らしくいられるからなんです。自分らしくいられると、楽しくなりますし、しんどくても続けられるんですね。

スポーツだけでなく仕事も同じです。自分らしくいられると長続きしますし、楽しくなります。グローバルキッズもそういう会社でありたいと思っています。初めに述べた多様性や子どもたち一人ひとりが個性を持った固有の存在であるのと同じように、保育の現場で働く人も多様であってよいと思います。

保育が自分らしくいることが、子どもたちにとってもよい影響を与えるんです。保育はこうしなければならないと一人で抱えて無理をするのではなく、保育それぞれの個性を活かし合い、足りないものをチームとしてどう補い合っていくのかを考えるのが良い保育現場なんです。私たちはそういった会社を目指していきたいんです。

他の保育事業者と比べて、私たちはとてもフラットな関係で仕事をしていると思います。トップダウンではなく、フラットだからこそ、保育現場で働く人たちが自分らしく生き生きと活動し、子どもたちにとって憧れる輝いた存在になっているのだと思います。

自分らしく個性を活かすために、強みを伸ばすべきでしょうか、弱みを伸ばすべきでしょうか?

企業としては研修メニューなど色々なものは用意したいと思っています。しかし一方的に押し付けるのではなく、本人の選択でよいと思うんです。何を伸ばすのか、補うのかも自分で気づけばよいと思います。信頼関係がある中で、もし上司が望むのであれば「あなたの足りないところはここだから、こう伸ばしてみたらどう?」と提案するのがよいと思うんです。〇〇〇~でなければならないというのが一番だめです。提案されたときに、納得する・しないは自分自身で判断すればよいと思っています。

このような研修については人事制度を含めて、これから整えていきます。しかし、絶対にやらなければならないことを用意するよりも、知識として持っておいたほうがよいと提案できるように整えていきたいです。

アメリカの小学校では時間割がなく、何を勉強するかを生徒が選ぶように働きかけるそうですね。

欧米では、自己決定するのが当たり前の教育になっています。日本ではまだその転換ができていません。私個人として2019年4月には、長野県南佐久郡佐久穂町に日本で初めてのイエナプランスクール認定校「大日向小学校」(学校法人茂来学園)(もらい))を開校しました。
そこでは自己決定する教育を試み始めています。一人ひとりの生徒が達成度合いを分かるようにし、自己成長していく気持ちを大切にしています。

今後の挑戦はなんですか?

長野県の小学校だけでなく、将来的には中学、高校、大学までという教育の入口から出口まで広げていきたいと考えています。子どもたち一人ひとりに個性があからこそ一人ひとりの子どもに焦点を当てた教育をやっていくべきだと思っています。知識や技術よりも人間的な関係、信頼関係に根差して、子どもたちが安心して大人になっていく。そういった学校を作っていきたいですね。

そして、そのような教育の担い手を生むためにも、下の年代から進めていくことが大事だと思っています。長期的には自分たちで運営する大学で、そこからの卒業生が保育業界に携わっていくという循環を生み出していきたいです。

人財活性や組織づくりへの取り組み

職員一人ひとりが安心と信頼に根差して自立していくという「個」の理想に対して、「組織」の理想形のイメージは?

目標が共有できている組織が理想です。「子ども達の未来のために」という企業理念に基づいて、子どもたちが幸せになるために保育現場をどう作っていくべきか、この目標を共有できていることが理想形です。

その実現手段の一つとして、もう4年目になる取り組みが「リンカーン会議」です。自分たちで考えて、自分たちで提案することから名付けました。会社に物申したいことがある人たちや、自分たちで良くしたいという人たちが手を挙げて議論し合います。

どのような提案が生まれましたか?

例えば、昨年は保育同士で物の融通をしようという提案がありました。施設には余っている物、逆に不足している物があります。それをGKアプリという社内の情報共有アプリを使って交換するというアイデアです。私たちでは気付かないところを現場の人たちが話をしてアイデアを出し、私たちも加わって実現可能か、実現するためには何ができるかを考えます。

他の例として、あるチームでは「イイとこ♥さがし」と言って相手のイイところを褒め合うことを保育現場でも進めると関係性が良くなるのではないかと提案があり、保育者同士がお互いにすごく褒め合っています。承認し合うということはとても大事で、話をすることで一歩、二歩と距離が近づいていきます。そういう提案を活発に行い、よりいっそう現場の安心と信頼を高めていこうとしています。

提案を促す取り組みとして、どんなことを行っていますか?

保育園では、全体的な計画と呼ばれる、私たちの保育園はこういう存在ですという宣言文を作成します。どんな特徴を持った園で、何を目標にし、地域にどのように貢献していくのかを考えます。

過去から引き継いできた全体的な計画では、自分たちで考えたものではないので、人によって目指しているものがバラバラになってしまっています。なので、保育現場ごとにチームブックというものを作りました。

GK_チームブック① GK_チームブック② GK_チームブック③

 

私が保育現場に行ってファシリテーターとなり、施設の職員全員にテーマに沿ってポストイットに言いたいことを書いてもらい、そこから保育目標を決めていきます。どんな子どもたちになってもらいたいのか、そのために保育はどうあるべきか、そのためにどんな園を目指すのかを、みんなの意見をもらいながら作っていきました。

自分たちで決めるということが重要なんでしょうか?

自分たちで考え、書いて、みんなで発表して、意見を言って決めていくことで、自分でやった感、自分の施設という意識が生まれます。目標が決まると、自分たちは何するのかも決まっていきます。

例えばタンポポの花が生えていると、子どもは花を摘んでしまうこともありますよね。その時に保育がどういう対応をするかがとても重要なんです。自然が大事だと考えるのであれば、おそらく叱ると思いますが、ほとんどの保育は子どもの気持ちに寄り添い、気持ちを大事にしたいと言うんです。
まずタンポポを摘んだことを叱るのではなく、摘もうとしている気持ちにどう寄り添うかが保育にはとても重要であり、「チームブックをみんなで作り上げることによって、保育に対する考えや思いが統一できたのではないですか?」と話をするとみんな納得するんです。

グローバルキッズでは、このように保育しないといけないというものを強制するのではなく、自分たちで目標を決め、どうやって自分たちが目標に近づいていくかが大切であると考えています。

子どもたちだけでなく、保育士にとっても自立と共生を重視しているんですね。

知識や技術が先になると、どうしてもやらされ感が生まれてしまいます。保育者や学校の教員には、子どもたちに安心してもらえるように、そして自信を持ってもらえるようにすることがまず始めにあるべきです。そのためにも保育や教員自身が自分たちの組織に安心し、自分に自信を持って子どもたちに接することのできる環境を整えることが大切です。保育や教員が自立し、お互いに共生し、それが子どもたちにとっての自立と共生に連鎖していくイメージです。

COMPANY PROFILE

理念・ミッション

 

  • 経営理念: “子ども達の未来のために
  • ビジョン:『2030 トリプルトラスト』
    ○ 2030年 職員と親子と地域に最も信頼される存在になり、子ども達の育ちと学びの社会インフラになる
  • 保育理念: “豊かに生きる力を育てる

社名

  • 株式会社グローバルキッズ

代表

  • 代表取締役社長 中正雄一

事業内容

  • 保育施設の運営、公共施設、イベント等における託児サービス開業、経営に関する企画、支援、コンサルティング給食請負事業、児童発達支援事業、他

    設立年

    • 2006年5月(創業:2006年1月)

    社員数

    • 3,842名(連結・パート含む) ※202011月現在

    売上

    グループ連結売上

    20169月期) 10,113百万円

    20179月期) 13,155百万円

    20189月期) 17,032百万円

    20199月期) 19,694百万円

    20209月期) 22,160百万円

    所在地

    • 102-0071 東京都千代田区富士見二丁目1436

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