s2cと調達部門~CPO’s Agendaを踏まえて~(後編)
s2cと調達部門~CPO’s Agendaを踏まえて~(後編)
さて前回、CPO’s Agenda 2019でレポートされている内容を取り上げ、最新の購買動向の一端に触れましたが、今回はその続きにあたる内容です。物の本など様々なところで語られて、言葉としては当たり前という印象を受けるかもしれませんが、今回はCPO’s Agendaで取り上げられた5つのキーワードにスポットを当て主にS2Cを軸とした調達・購買活動と絡め、大きなイメージを掴みつつ読み解きながら、そこに潜む難しさをお伝えできればと思います。
1. 調達分析能力の向上
調達分析は、非常に多岐に渡り、また、個々の企業の施策のバラエティによって無限に広がって行く領域です。 支出分析を用いて、戦略的な調達を実現するためには、過去の事実と将来の予測や市況変化を加え、分析・整理する事が肝要です。
グローバルでは、アナリティクス専門人財の登用や組織的体制の整備を行い、分析結果を調達戦略やKPIに反映する、といった取り組みを行っている先進企業もあります。
今回は数ある支出分析手法の中で、特にグローバルで標準化された概念、「Spend Cube」について軽く触れます。Spend Cubeは対象企業の総支出を事業軸、品目軸、取引先軸で分解して分析する手法です。総支出を元に支出の全体感を失わずに、上記3軸で分解していく事で、意味のある塊のデータに落とし込んで行きます。
しかしこれが時に当たり前分析になってしまうことがあります。出てきたデータに何の意外性もなく、Spend Cubeの情報を見ただけでは何も示唆を感じないと言う状況です。実はこのSpend Cubeですが、上に挙げた3軸で分解するという事が重要な意味を持っているのです。この3軸は調達が戦略を持つべき最も重要な3軸です。そのため、もし、このSpend Cubeの分析を見たときに特に何も感じないという場合には、それぞれの軸に対して自分が所属する調達部門の戦略が不十分である可能性があります。逆に言えば、調達分析能力の向上は各軸の戦略をきちんと備えた上で、それぞれの調達部員が自部門の戦略を熟知し、それを分析視点に投影するスキルを持つことが入り口になります。
2. 調達人員のスキルをビジネスニーズに適合させること
前回でも触れた様に、調達の果たすべき役割は近年、大きく変わりつつあります。間接部門の中でもサプライチェーンに直接貢献できる調達部門は、旧来の安定生産を下支えする役割から、事業の変革を調達の視点からリードする重要な存在に変わって来ています。その大きな期待に応えていくためには、今までの「交渉上手な良いバイヤー」から脱却し、ITや業務改革手法等のあらゆるスキルを発揮して事業戦略に合わせたトランスフォーメーションをリードできる人材を育成していく必要があります。
一方で、ほぼフル稼働、場合によってはフル稼働以上に現状業務に従事しているバイヤのスキルを新たな方向性に向けて行くには、業務効率化をきちんと実施し、十分な組織としての余力を生み出して臨むしか方法はありません。具体的には、自社の調達人員全体の稼働領域やスキルセットを適切に把握し、IT活用や業務効率化、時にはBPO等も駆使して進める必要があります。
そして、これらを成功させるカギはS2Cにあります。S2Cへの注力はビジネスニーズを調達実務に乗せること、そしてP2Pを合理化する際の切り札にもなり得ます。
3. 取引先関係性管理の活用
このキーワードは英語原文では、「Lever」と言う単語を使って表現されています。Leverと言うのはテコの原理の事で、この文脈の場合、取引先との関係性にテコ入れを行うと言う意味で捉えています。
一見すると、日本の企業にとっては得意分野で既に十分に取り組まれている活動のようにも思えますが、レポート内ではデジタルツールの導入による取引先のプロセスの連携やデジタルな情報共有の活性化などの取り組みが例示されています。
しかしながら、実際にはITによる取引先とのコラボレーションを実現する以前に、数多くの課題が残されています。経営にとって調達が重要であるという事は、取引先との関係性の構築が企業にとっての経営上の課題となっていることを意味します。今や取引先は下請け業者ではなく、共に市場に価値を提供していくパートナーに本当の意味で変わって来ています。市場や顧客へのスピード感と価格に対応するためにも、早い段階での協業取引先との情報交換の仕組み整備とS2Cプロセス効率化がポイントになります。
そのような協業の接点はS2C業務にあり、グローバルでは、情報交換の仕組みとS2Cプロセス効率化を実現するために、積極的にS2C ITを活用している企業が増えて来ています。
4. 調達機能の迅速性の向上
変化に富む現代の経営環境において、事業の迅速性は競争力の根幹です。企業が製品やサービスを市場が望むスピードで提供していくには、当然ながらバリューチェーン全体の迅速性が求められますが、調達部門は、多数の品目を多数の取引先から、品質やコストの条件を満たしながら調達し、この要望に応えて行かなくてはなりません。
そして、調達が高度化することで、原価の作りこみなどの上流工程から下流の販売やサービスまで、バリューチェーン全体の高度化に大きく貢献することができます。そしてその貢献からは、市場や顧客の信頼強化を始めとした事業に対する更に良い循環がもたらされます。昨今のECビジネスの発展によっても確かに感じることができることではないでしょうか。
このような調達の迅速な対応を実現するためには、組織体制やロール設計、業務プロセス、ITシステムの整備等、調達機能全体の最適化・統合を進める必要があります。
5. 顧客志向の向上
言わずもがな、と言う点ではありますが、調達業務の結果はSCMに直結するだけではなく、当ブログで繰り返し述べているように、外注比率の増大に起因して、調達業務は自社製品の品質にも大きく関わってきます。
私は市場で物を買うときに、安いのに品質の良いものを提供しているのを見ると、提供している会社は調達機能が発達している会社なんだなと思います。技術者が立派だという事もあるとは思いますが、その場合、個別の製品群に限られてしまうので、会社として全般的にコスト・品質が良いという場合、どうしても調達の活躍が目に浮かんでしまいます。それが事実かどうかは置いておいて、今はまさに調達が最終顧客視点で業務をして行かなくてはならない時代に突入しています。
その際には、もちろん、技術部門や品証等あらゆる会社機能と連携し、最適な調達をリードしていかなくてはならないのですが、その接点となるのが、調達戦略であり、S2C業務です。調達は常にプロセスを改善していき、既にすべてが決まってしまっている見積依頼を事後処理する組織から、事業部門のパートナーとしてプロジェクトの早期に参画するデリバリー部隊に変わっていく必要があります。
以上、長くなってしまいましたが、これで我々が2019 CPO Agendaのキーワードを借りて内容を少し掘り下げただけでも、多くの挑戦に臨まないと実現することができない困難な事だと感じて頂けたかと思います。日本を中心とした世界の調達購買部門においても、このような変革の波に乗り遅れないために、S2C業務の強化を中心とした準備をすることが重要であると考えております。
前回の投稿を含め、少し堅い話題で始まってしまいましたが、今後は身近な時事ネタ等を挙げながら、お楽しみいただけるブログを目指して行きたいと思います。もちろん、専門的な事柄も鋭意掲載していきます。
それでは、またお会いしましょう。
◆監修企業
アンカービジネスコンサルティング株式会社
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